製法の力

伝統の製法を受け継ぐ現場

昔ながらの釜焚き製法で石けんをつくっているのが釜場です。鹸化・塩析・静置・仕上げ塩析という工程を踏み、仕上がりまでに百時間かけています。

原料の油脂を釜に入れ、加熱・攪拌しながら苛性ソーダの水溶液を加えます。すると、油脂は加水分解されて脂肪酸とグリセリンに分かれ、脂肪酸が苛性ソーダと反応して石けんになります。これが鹸化(けんか)です。その後、食塩を加えて石けんの分子を釜の上層に集め、不純物を沈殿させる塩析(えんせき)をします。塩析の後は釜を保温して、石けんの純度が高まるのを待ちます(静置[せいち])。24時間後、再び塩析をし、「石けん素地」に仕上げています。

松山油脂の石けん素地の純度は98%。残りの2%のうち、1.2~1.7%はグリセリンです。最も古い保湿剤といわれ、つっぱり感を和らげるグリセリンが自然に溶け込んでいる。また、油脂を釜で焚き上げると、人の肌に対して最適な洗浄力の石けんになる。それが釜焚き石けんの大きな特長です。だから私たちは、伝統の製法を70年以上受け継いでいるのです。

人の手が伝えてきた枠練り製法

一昼夜かけて枠で冷やし固めた石けんを切り分ける。松山油脂が続けている石けんのつくり方、枠練り製法です。

まずは大きな直方体の石けんを、ステンレス鋼線で同じ厚さの板状に切り離す、「段切り」をします。1本のステンレス鋼線の端と端を作業者ふたりが握り、息を合わせて同じ速さで引っ張ります。石けんに、曲がることなくまっすぐな線がスーッと入れば成功です。次に、キズをつけないように石けんを慎重に「小切り機」へと運びます。その後、縦に1回、横に1回、計2回小切り機に通します。これで手のひらにおさまる、使いやすい大きさになりました。この後、石けんは乾燥・熟成工程へと移されます。

このように、枠を使い、人の手で切り、乾燥・熟成させるのを「枠練り製法」といいます。地中海地方で伝統的につくられているオリーブオイルの石けんも、この枠練り製法でつくられています。以前は日本でもさかんにつくられていましたが、手間も時間もかかるので、今ではずいぶんと少なくなってしまいました。

モノづくりには瞬発力が要る

釜からもうもうと立ち昇る蒸気で、とくに夏場にはむせ返るような熱気が満ちる釜場。そんな暑さのなかでも、職人は倦むことなく釜を焚き続け、石けんをつくっています。「製造手順書はあるけれど、マニュアル化できないこともある」。職人は話します。

「鹸化の最中は、釜の中で化学反応が起り、反応熱が出ている。これは自然現象だから、正確に予測するのは難しい。釜に加える熱と反応熱、それに気温を合わせて考えないと、石けんの熱が上がり過ぎてしまう」「気を付けて見ているのは石けんの表面。そこから中で起こっている反応の具合を見極める。表面がぐぐっと盛り上がってくるのは、熱が上がり過ぎているしるし。すぐに塩水を注入して釜の暴れを抑える」。

マニュアル化できないのは、このような瞬間的な判断。よい石けんづくりは、職人ひとりひとりの経験とそこで培われた勘、瞬発力にも委ねられています。

手間を惜しまず手仕事でつくる

富士河口湖工場では、墨田工場からチップ状の釜焚き石けん素地が運ばれます。それに精油や植物エキス、保湿成分をまんべんなく混ぜ合わせる。何度も練ってなめらかにする。金型で成型する、刻印する。これが機械練り石けんの工程です。

混ぜ合わせた素材や、気温や湿度によって石けんの状態は変わります。機械の動きに影響が出るほど変化することもあるのです。硬過ぎると刻印が薄くなり、軟らか過ぎると型離れが悪くなる。微妙なバランスで決まる硬さと軟らかさに合わせて、機械の速さや設定温度、さらに石けんの含水量をその場その場で加減しなければなりません。それができるのは、やはり人。何度も目で見て、手で触れて。限られた時間のなかでも細かな調整を重ね、最も適した条件を探り当てていきます。機械練りの特長は、少ない日数でたくさんの石けんをつくれること。それでも、すべて機械任せや、むやみな大量生産はしたくない。それが、モノづくりに対する私たちの思いです。

化学の眼で見た透明石けん

釜焚き製法の話で少し触れたグリセリン。化粧品にとって最も重要な素材のひとつです。肌に潤いを与えて柔軟に保つ、液体にとろみをつける、他の素材を溶かす、洗浄剤の泡立ちをよくするなど、使い方によってさまざまな働きをします。

加えてもうひとつ、重要な役割が。それは石けんを透明にすることです。X線での解析により、石けんは繊維状の微結晶でできていることが分かっています。グリセリンには、結晶を形づくっている分子同士が引き合う力に影響を与える働きがあります。その結果、結晶の成長が抑制され、結晶はさらに細かくなり、可視光線は反射されずに石けんを透過します。透明石けんが透明なのは、このような裏付けによるものです。

試みに、新聞の上に松山油脂の透明石けんを置いてみると、石けんの向こうに文字が透けて見えます。松山油脂では、紙面の文字がはっきり読めることを、透明度の基準のひとつにしています。

自社工場だからできること

「人のいない広い空間で、大きな機械が1日中同じモノを大量につくっている」。工場のイメージとは、ほとんどがこのようなものでしょう。一方、松山油脂では、このスキンケア充填室でもおわかりのとおり、小さな機械をずっと人が動かしています。小さな機械が得意なのは、少なくつくること。非効率なやり方と思われるかもしれません。

けれど、私たちは、私たちのモノづくりにとって、それが最も適した規模だと考えるのです。私たちの強みは多品種少量生産。正直、とても手間がかかります。例えばAという製品の後にBという製品を充填するには、一度機械を分解し、すべての部品を洗わなくてはなりません。そしてまた組み立てる。手間がかかりますが、これこそ自社工場だからできることなのです。さまざまな製品をつくるからこそ、お客様に何通りもの選択肢をご用意できる。私たちにとって特別に思い入れのあることを実現できるのが、多品種少量生産です。